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プーケットにて。
30年の歴史を誇る「キングスカップ」の魅力
仕事でバンコックに行く機会は多いが、なかなかプーケットまで足を伸ばす機会がなかった。
ご存知のとおり、プーケットは景観が素晴らしいタイでも有数の観光地で、毎年12月に「キングスカップ」が開催され、2016年は30回目の記念大会で日本艇も4艇が参加していた。
昨年10月にタイ国王のラーマ9世(通称プミポン国王)が逝去され、タイ国中が1年間は喪中というなかで、2016年の開催はどうかなと思ったが、レースの主催者に問い合わせたところ「30回の記念大会だから例年のように開催するよ」との返事、そこで、急遽、プーケット行きが決まった。
じつは、ヨッティングが主催しているヨット塾の生徒さんのなかに「プーケットやキングスカップ」に興味を持っている人が多く、今回はレガッタ取材というよりも、チャーター艇の状況や料金など、現地調査の意味合いが深い旅だった。
成田を発って約6時間でバンコック国際空港へ。バンコックからプーケットまでは1時間のフライトでプーケット国際空港に到着する。タイ有数の観光地だけあって世界中の国々から観光客を満載した飛行機がやってくる。昼間に着く飛行機が重なると入国審査や通関が大混雑で長蛇の列、終わって外に出るまでだいぶ時間が掛かった。空港からキングスカップの本部がある"カタビーチ"まではタクシーを利用するしかないが、ここでもタクシーの争奪戦。係員がいるのだが、これがまた要領が悪く、重い大きな荷物を持ってタクシー乗り場を移動しながらやっと大型のタクシーを掴まえ、空港からカタビーチまでは島の端から端へ移動する感じで約1時間、料金も2,000バーツ(約6,000円)と高かった。
キングスカップのコミッティはカタビーチリゾート&スパという海辺の高級ホテルにあつた。プレスセンターを覘いてみると懐かしい顔が。だいぶ昔になるが、雑誌に寄稿を依頼していたオーストラリアのヨッティングジャーナリスト、ボブ・ロスがまだ現役でいたから驚いた。他に、地元タイのTVクルーやカメラマン、イタリア、ロシア、中国など、参加国の記者やカメラマンがいて情報交換。
プーケットにも大きなマリーナがあるのだろうが、キングスカップに参加しているレース艇のほとんどはカタビーチ沖にアンカーリングしている。レースがある日はビーチからフネまでエンジン付きのテンダ―で運ばれるのでビーチは早朝から大賑わい。我々プレスも指定のビーチに集合し、そこからテンダ―でプレスボートに運ばれる。
このプレスボートがまた、タイ国海軍の軍艦だから驚いた。他にもラバーボートが走り回っていたが、これには現地タイの取材陣が乗っていた。翌日もビーチ集合で、この日のプレスボートは全長100ftもある豪華ボートでペイドクルーが何人も乗っている。飲物から食事の世話までかいがいしく面倒を見てくれ、昼になると島蔭にアンカーリングしてランチタイム、まるでVIP待遇だった。
この豪華ボートのオーナーは、プーケットでも有名なレストランの経営者で、もう何年もボランティアでこのキングスカップをサポートしているという。タイの国民性というか、大らかでホスピタリティ溢れる対応に、同乗した各国のプレスも大満足の様子だった。
このキングスカップはプーケットの広い海域を使ってクラス毎にいろいろなレースが組まれる。クラス分けもIRC 0、1、2の3レーシングクラスから、ワンデザイン、マルティハルのレーシング、クルージングクラスがあり、チャーター艇には、オープンチャーターにベアボートチャーターと2クラスに分かれ、それにクルージングクラスが加わり、じつに10クラスに分かれて競われる。レースコースやレース海面もクラスによって異なり、例えば、レーシングクラスがオリンピックコースなら、クルージングクラスは島回りと、コミッティに指示されて行われるわけだ。その他に、岸近くでは、OP、レーザー、420、470の4クラスが参加してディンギーのレースが行われている。
今回参加した日本艇は5艇。毎年参加している常連の<カラス>がIOR1で見事に優勝、マルティハルのクルージングクラスでは<Minnie>が見事に4連覇を果たしている。<Minnie>のオーナーは、もともと関東海域でヨットに乗っていたベテランセーラーで、リタイヤ後にマレーシアのペナン島に移住し、このキングスカップには、愛艇のカタマランをペナンから回航しての参加。回航やレースには、昔のヨット仲間が大勢日本から駈けつけると云う。
ちなみに、ベアハル(クルーはつかずヨットのみ)では、20万バーツ~(約60万円~)位から程度の良い艇がチャーターできるそうだ。
現地入りして、プレスのインフォメーションキットを見ると、12月3日のオ―プニングセレモニーから6日、7日、8日、10日の総合表彰式まで毎夜のようにクラス別の表彰式とディナーパーティが開催される。ディナーパーティの会場は、ビーチに隣接した高級リゾートホテルが数か所用意されていて、本部のカタビーチリゾート&スパから会場までは送迎用のバスが用意されている。
料理もお酒も食べ放題、飲み放題、豪華な雰囲気の中での表彰式や、ときにはセミナーが開催される。終始和やかなムードのなかで会話も弾むし、南国特有の解放感が会場全体を包む。
クルーひとりのエントリーフィーは5千バーツ(約1万5千円)。でも、レースにパーティに、これだけ愉しめれば、決して高くはないような気がする。
今回は僅か数日間の滞在で、キングスカップの面白さ、愉しさを垣間見たに過ぎないが、王様のヨットレースとして30年間も続いてきた背景には、風光明媚なプーケットの魅力に加えてタイ人特有のおおらかさ、ホスピタリティがあるように感じられた。(取材・文 本橋一男)