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新連載 全国マリーナ/海の駅探訪

下田ボートサービス しもだ海の駅

歴史が刻まれた海の要衝、下田は東西を結ぶ海洋レジャーの玄関口

下田ボートサービス伊藤社長を囲んで

 7月4日(土曜日)10:00、梅雨前線が停滞し、雨雲が低く垂れこめる伊豆急下田駅に大勢の若者が集まった。これから1泊2日で小型船舶操縦士免許を取りに行くのだという。向かった先は下田港の柿崎海岸にある「下田ボートサービス」、この若者集団を笑顔で出迎えたのが下田の主、下田ボートサービス社長の伊藤秀利さんだった。
 下田港はペリー来航・初上陸の地でもあり、昔から東西を結ぶ海の要衝として歴史を刻んできた。この下田で50余年にわたってマリンスポーツの振興、ヨット、ボートの普及に取り組んできたのが伊藤秀利さんで、関東、関西のヨット、ボートが下田に寄港した際には必ず世話になるのが「下田ボートサービス」なのだ。

2日間にわたる小型船舶操縦士免許実技講習が始まった

 「小さい頃は外国航路の船長になるのが夢だったんですよ。でも、視力が足りなくて諦めたんです。早稲田大学に入ってヨット部に入部してからは、33ftのクルーザーでレースに明け暮れていました。大学を卒業して、地元の下田に戻ってから下田の港を海洋レジャーの玄関口にしようと「下田ボートサービス」を立ち上げました。それから、ヨットやモーターボートの管理や小型船舶操縦士免許の教室を運営する傍ら、ヨットレースやカジキ釣り大会などのサポートをしたり、海への思いはまだまだ熱いつもりです」(伊藤秀利社長)

 この日、静かな柿崎海岸にある下田ボートサービスのクラブハウスには、神奈川県藤沢市に本拠をおく日本大学生物資源科学部の学生18名が集まっていた。じつは、下田港の先端、爪木崎には日本大学の下田臨海実験所という立派な施設がある。この日、下田に小型船舶操縦士免許を取得するための実技講習と実技試験を受けにきた若者たちは、同学部の海洋生物資源科学科という“海の生物・環境・自然科学”を学ぶ学生たちだった。彼らが学ぶ海洋生物資源科学科のカリキュラムのなかに「小型船舶操縦法実習」という選択科目があり、「2級小型船舶操縦免許」取得を目指しており、130余名の学科2年生のなかから年間で85名もの受講生が免許を取得するという。卒業後、彼らは、水産業はもとより、食品関連企業や漁協、水族館や魚市場、マリンスポーツ関連施設、研究機関など海に関わる様々な仕事に携わっていくという。

 そんな学生達を暖かい眼で見守る伊藤秀利社長は、昭和49年に「小型船舶会議免許取得講習所」を発足以来50余年にわたって免許教室を運営し多くのマリン愛好家を育ててきた。
 いまは、下田ボートサービスを運営する傍らNPO法人東日本海の駅にある「しもだ海の駅」の管理者として多くの旅人を迎え入れている。

下田の海を暖かく見守る伊藤秀利社長

 「風光明媚な下田の海にマリンスポーツを根付かせようと頑張ってきました。いまは、この柿崎桟橋にも川沿いのサンバード桟橋にも多くのヨット、ボートが立ち寄ってくれて、海やヨットの話で盛り上がります。外国のヨットも私を頼って入港してくるが、そんな時には下田の街の見所をたくさん案内してあげたり…港にくる船にはそれぞれに歴史が刻まれているんです。そんな船の面倒を見てあげるのが愉しいですね。じつは、廃船寸前だった母港の懐かしいクルーザー<稲龍>を譲り受け半年かけてレストアして、昔のままの姿を持った美しい船に蘇らせたんです。そんな<稲龍>に会うために、昔を懐かしんだオールドソルティたちが、いまでも下田に来るんですよ」

 遠い昔から、荒れ狂う遠州灘という海の難所を無事に渡って来た船は下田に錨を下ろし、温泉と美味しい食べもので鋭気を養い、江戸湾品川沖まで最後の航海に船出していったという。歴史が刻まれた海の要衝、下田の港はいまも昔も変わらず海の旅人には優しい港だ。
 伊藤秀利さんは、今日も、そんな下田の海を暖かく見守る。